広報委員より      No.224 2019年1月号②

 「顕微授精(ICSI)の受精率とタイムラプスについて」~高度生殖医療センター培養室~

当院で顕微授精(ICSI)をスタートさせた当時、国内でICSIを行なう施設は多くありませんでした。現在のように、既製品の針や試薬などはなく、当院で作成機械を購入し、ほぼ自作していました。太さや長さなど試行錯誤の日々。そんな状況の中、院長自らが行なったICSIにより、平成7年に南九州で最初の妊娠・出産に成功しました。平成7年当時のICSIの受精率は60~70%程度。現在に比べて設備や道具が不十分だったため、それほど高いものではありませんでした。しかし、それから年々向上し、ここ数年の平均受精率は約84%(2PN/施行数※異常受精は含まず)と、全国的に見ても高い水準を保てるようになりました。

ICSIの受精率を向上させた要因として、道具やテクニックの向上が挙げられます。ICSI針(インジェクションピペット)はICSIの受精率に大きく影響してきます。安定した既製品の供給を受けられることで安定した成績を出せるようになりました。また、レーザーを使用するなど穿刺の方法も改善を行いました。

近年では、タイムラプスの導入が受精率を向上させることになりました。それまでは、ICSIを行なってから16~18時間というタイミングでしか受精を確認することができませんでした。その時間のわずか数分のタイミングで受精(2PN)が確認できなければ、分割が進んできたとしても「受精をしたのに2PNの消失が早かった」あるいは「遅れて受精した」、「異常受精」、「未受精からの単為発生」などの判断がつかず、移植や凍結の対象から除外していました。平成17年にタイムラプスを導入、さらに翌年には最新型のタイムラプスを導入し、更に細かい受精や発生状況が確認できるようになりました。

顕微授精をしてから17.5時間で既に前核(2PN)が消えています。タイムラプスでなければ受精の確認ができなかった可能性がありますね。

当院では、撮影した画像を見ながら2名以上で受精状況の確認をしています。

こうして最初の顕微授精から23年が経過し、受精率は約20%近く向上してきました。しかし、近い将来にまた新しい方法や技術が出てくるかもしれません。当院では、今後も最新の情報を逸早く取り入れ、患者様に提供できるよう努力していきたいと思います。